転勤族の暮らしには、あまり語られない弱点があります。いざというとき、頼れる場所が少ないということです。
持ち家はなく、ずっと賃貸。実家は遠い。住んでいるのは、数年前まで名前も知らなかった土地。ご近所に親しい人がいるとも限りません。日本は地震も台風も多い国なのに、逃げ込める先が用意されていない状態で暮らしているのが、転勤族の現実だと思っています。
だから私は、防災を「災害が起きてからの話」ではなく、引っ越し先の家を探す段階からの話として考えるようになりました。今日はその具体的なやり方を書きます。
- 転勤族の防災が難しい、4つの理由
- 引っ越し先の家を探すときに、必ず見ておきたいもの
- 地名から土地の成り立ちを推測するときの注意点
- 賃貸マンションで一番困るのが「トイレ」である理由
- 車を「もう一つの家」として備えるという考え方
- 実際に車中泊をして分かった、車の限界
- 備蓄を「実生活で使うもの」だけにしている理由
- ラベルレスの賞味期限は、どこに書いてあるか
- 被災した方が「一番つらい」と話すこと
転勤族の防災が難しい、4つの理由
同じ土地にずっと住んでいる方と比べて、転勤族の防災には不利な点があります。
- 土地勘がない。どこが低い土地なのか、どの川が危ないのかを知らない
- 引っ越すたびに、危険な場所が変わる。前の土地で覚えたことが、そのままでは使えない
- 近所に頼れる人が少ない。助け合える関係を作る前に、また引っ越すこともある
- 持ち家も実家も遠い。自宅が使えなくなったとき、身を寄せる先がない
ただ、ひとつだけ有利なこともあります。転勤族は「住む場所を選ぶ機会」が人より何倍も多いということです。ここを使わない手はないと思っています。
だから私は「家を探す段階」で防災を見ています
私の順番はこうです。まず転勤先の目安が決まったら、住む地域を探しはじめます。地域の見当がついたら、そこで住む家を探します。
この「地域を決めてから家を探すまでの間」に、防災の確認を挟みます。家を決めてしまってからでは遅いからです。
①住みたい地域のハザードマップを見る
市区町村のホームページには、ハザードマップが必ずあります。自分が住もうとしている地域のものを、契約する前に一度見ておいてください。洪水で何メートル浸かるのか、土砂災害の警戒区域に入っていないか、といったことが分かります。
ただ、転勤族は引っ越すたびに違う自治体のサイトを探すことになります。正直、これがけっこう面倒です。そこで便利なのが、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」です。
全国どこでも、同じ画面で調べられます。住所を入れるだけで、洪水・内水氾濫・高潮・津波の浸水想定や、土砂災害警戒区域、近くの避難場所までまとめて表示されます。引っ越し先が決まるたびにここを開けばいいので、転勤族にはこちらのほうが向いていると思います。
②地名を、気にしてみる
これは私が経験的にやっていることです。地名や地域名に「川・池・沼」などが入っている場合は、少し気にするようにしています。
もともと水に関わる土地だった可能性があり、地盤がゆるかったり、近くの川が増水したときに影響を受けやすかったりすることがあるからです。「谷」「窪」なども同じように、低い土地を表していることがあります。
ちなみに、さきほどの「重ねるハザードマップ」には「地形分類」という表示があります。これを見ると、その土地がもともとどんな地形だったのか(低地なのか、埋め立てられた土地なのか、など)が分かります。地名で気になったら、ここで答え合わせができます。
③その土地で、過去に何が起きたかを調べる
もうひとつ、地名や地域名で検索して、過去にその地域で起きた自然災害を調べておくこともおすすめです。
「大きな台風が来たときに、この辺りは水没した」「川が氾濫して流された家があった」。そういう記録が出てくることがあります。過去に起きたことは、また起こる可能性があります。予報や想定だけでは見えない危険を、過去が教えてくれることがあるのです。
これも、先ほどのポータルサイトで見られます。「自然災害伝承碑」という表示です。昔の人が「ここまで水が来た」「この場所で何人が亡くなった」と石碑に刻んで残した記録が、地図の上に出てきます。その土地に住んでいた人が、未来の私たちに向けて残してくれた警告だと思っています。
賃貸マンションで、一番困るのはトイレです
住む場所が決まったら、次は備えです。転勤族は賃貸のマンションやアパートに住むことが多いと思いますが、集合住宅にはひとつ、見落とされがちな弱点があります。
停電すると、断水します。
意外に思われるかもしれませんが、マンションの水は電動ポンプで各部屋に送られています。受水槽にためてから送る方式でも、水道管から直接押し上げる方式でも、どちらもポンプが電気で動いています。つまり停電した時点で、水道が無事でも水が出なくなります。
給水方式にもよりますが、停電中に水が出るのはおおむね3階くらいまでで、4階以上は断水すると言われています。水が出なければ、当然トイレも流せません。
そしてもうひとつ、地震のあとは、水があっても流してはいけない場合があります。排水管が壊れている可能性があるからです。上の階で流した水が、下の階の部屋であふれてしまうことがあります。
食べ物や水は、少しの間なら我慢できます。でもトイレは我慢できません。しかも食料より先に必要になります。だから私は、備蓄のいちばん最初に携帯用トイレを置いています。
1日5回 × 人数 × 7日分=1人あたり35回分
(経済産業省や自治体が示している目安です。まずは3日分=1人15回分からでも)
私は自宅と車の2か所に置いています。家にいるときに起きるとは限らないからです。
私が備えているのは「トイレの女神PREMIUM」という国産の簡易トイレです。100回分入っていて、2人家族ならちょうど7日分にあたります。凝固剤と処理袋がセットになっていて、車にも積めます。
選んだ決め手は15年保存できることでした。このあと書きますが、私は「しまい込んだものは見直されない」と思っているので、見直さなくても期限が切れないものを選んでいます。トイレだけは、普段の生活で使って減らすわけにいきませんから。
車は「もう一つの家」になる
2か所に置いている理由は、もうひとつあります。私は車を「もう一つの家」として考えているからです。
自宅が使えなくなったとき、実家にも近所にも頼れない。それが転勤族です。だから私は、車にこんな役割を持たせることにしました。
- 避難できる場所:体を横にできるスペースがあること
- 電気の備え:ハイブリッド車で、コンセントをオプションで付けました
- 燃料の備え:満タンにしておけば、それ自体が備蓄になります
- 移動する手段:必要なときにその場を離れられること
- 置いておく場所:防災グッズや着替えを積んでおけること
実際に車中泊をしてみて、分かったこと
ただし、これは「車があれば安心」という話ではありません。実際に車で寝てみて、はっきり分かったことがあります。
災害とは関係のない場面ですが、車中泊をしたことがあります。2月の寒い時期でした。毛布や着るもので暖をとっていたのですが、エンジンを切ると1時間ともたずに、寒さで目が覚めてしまいました。
夏も同じだと思います。最近は夜でも気温が下がらないので、エンジンを止めたら数時間ももたないはずです。
つまり車で寝るには、エンジンを動かし続けることが前提になるということです。そしてこれは、そのまま注意点にもなります。
- 一酸化炭素中毒:エンジンをかけたまま眠るのは危険です。特に雪の日は、マフラーの周りが雪でふさがれると、排気ガスが車内に入ってきます。実際に亡くなった方もいる事故です。雪のときは除雪を忘れずに。そして、毛布だけでは寒さをしのげないことが、私の経験で分かりました。エンジンに頼らずに暖がとれるもの(冬用の寝袋や湯たんぽなど)を用意しておくほうが、結果的に安全だと思います
- エコノミークラス症候群:同じ姿勢が続くと血の巡りが悪くなると言われています。こまめに水分をとって、足を動かしたり、外に出て歩いたりを意識したいところです
だから、ガソリンを切らさないようにしています
エンジンを動かし続けるということは、ガソリンがいるということです。車中泊で一番先に必要になるのは、実はガソリンでした。
電気についても同じです。よく誤解されるのですが、ハイブリッド車はバッテリーにたくさん電気をためているわけではありません。ガソリンがあるかぎりエンジンで発電し続けられる、いわば「走る発電機」というほうが実態に近いです。オプションでコンセントを付けておけば、そこから家電を使うこともできます。
つまり避難場所としても、電源としても、支えているのはガソリンなのです。だから私は、ガソリンが半分を下回らないうちに満タンに入れるようにしています。
車の維持費や節約の面で、これが正しいやり方なのかは分かりません。こまめに給油する手間もかかります。それでも私は、ガソリンは保険だと思って入れています。災害は、ガソリンスタンドに行列ができる前にやってくるからです。
車選びも「寝られるか」で考えています
車を選ぶときも、自分たちが横になって寝られるスペースを確保できるかを、基準のひとつにしています。
ここは体格によって変わるところです。背の高い人なら、それだけ長さが必要になります。自分の体に合わせて選んでおけば、第二の避難場所になる可能性が少し上がります。気休めかもしれませんが、可能性はゼロよりいいと思っています。
あとは、一畳用のマットのようなものも売られているようです。私はまだ持っていないのですが、積んでおくと寝心地がずいぶん違いそうだなと思っています。テニスのあと、待ち時間に疲れて車で横になることがあるので、普段使いもできそうだなと。
とはいえ、車があれば絶対に安心というわけではありません。短い期間をしのぐための、ひとつの手段くらいに考えています。
備蓄は「実生活で使うもの」だけにしています
引っ越しのときは、なるべく荷物を減らしたいですよね。私も引っ越しをするたびに、荷物が減っていきます。転勤族は、そもそも備蓄を積み上げにくい暮らし方をしています。
そのなかで気づいたことがあります。一度しまい込んだものは、使う機会がないと、ほとんど見直されません。
ローリングストック(食べたぶんを買い足して、少しずつ入れ替えていく方法)を、正しく続けられている人はどれくらいいるでしょうか。忙しかったり、楽しかったりすると、時間はあっという間に過ぎます。そしてありがたいことに、災害に遭わなければ必要にならないものです。その日が来なければ、開かれることのない箱になってしまいます。
だから私は、実生活で使うものだけで備えることにしました。特に食べものについては。
水とお茶は「持ち歩ける形」で買う
まず水です。マンションで断水すると、水は自分で運ぶことになります。エレベーターが止まって階段しかない状況を考えると、水を運ぶだけでも一苦労です。だから最低限、家にはペットボトルの水をケースで2箱ほど常備しています。
ただ、飲み水には消費期限があるので、置きっぱなしにはできません。入れ替えていく必要があります。
そこで私は、2Lではなく持ち歩けるサイズのペットボトル(600ml前後のもの)を、常に3ケースほど買い置きしています。水とお茶を合わせて、です。
このサイズにしている理由はひとつです。出勤のときも、テニスに行くときも、そのまま持っていけるから。持っていけば減ります。減れば買い足します。意識しなくても、勝手にローリングストックになるのがいいところです。「備蓄を入れ替えなきゃ」と思わなくて済みます。
ちなみに私はカフェインを摂らないようにしているので、お茶はノンカフェインのもの(十六茶や爽健美茶など)を選んでいます。麦茶やブレンド茶なら、夜でも家族の誰でも飲めます。備蓄として考えると、誰がいつ飲んでも大丈夫というのは意外と大事な条件だと思っています。
そしてもうひとつ、私が選んでいるのがラベルレスのペットボトルです。ラベルを剥がす手間がなく、ゴミも減ります。ケース買いとの相性がいいので、備蓄にも向いていると思っています。
ただ、ここは食品表示を勉強してきた立場から、ひとつだけお伝えしたいことがあります。
ラベルレスは、表示を省略しているわけではありません。原材料名や栄養成分、そして賞味期限は、段ボールの外装に書かれています。ケース単位で売られているのは、そのためです。
賞味期限の表示そのものについては、食品メーカーで品質管理をしていたころの話を食品添加物は本当に危険?作り手から見た本当のところにまとめています。
ちなみに、私がいつも買っているのはこの2つです。どちらもノンカフェインで、ラベルレスのケース売り。テニスに持っていくのも、家に置いておくのもこれです。
食べものも、普段食べるものだけ
カップラーメンや缶詰も、普段から食べているもので賄おうと考えています。非常食用の特別なものは、あまり買っていません。
理由は単純で、普段食べないものは、災害のときになったからといって食べたくなるとは限らないからです。むしろ不安なときほど、食べ慣れたものに助けられるのではないかと思っています。
非常食を買い足すより、いつもの棚を少しだけ厚くしておく。そのほうが、私には続けられそうでした。
防災グッズは「最低限のセット」と、山の道具
懐中電灯やラジオといった、いわゆる防災グッズは、最低限のものがセットになっているものを購入しました。
正直に言うと、これらが実際にどこまで必要になるのかは分かりません。それでも、安心材料として持っておくことにしています。
ここは、趣味によって大きく変わるところだと思います。キャンプをされる方は、持っている道具がそのまま防災に使えます。これはかなり有利です。私はキャンプをしないので、そういった装備はありません。
ただ、ごくまれに山に登ることがあるので、そのときに使うガスやお湯を沸かせるもの、簡単な調理ができるもの、小さいテーブルが少しだけあります。これも「防災のために買ったもの」ではなく、実生活で使うものです。結局そこに行き着きました。
配られるものと、配られないもの
最近、災害で被害に遭われた方のお話を聞く機会があります。そのなかで、意外だったことがあります。
「おにぎりやパンは、たくさんもらえる」という声を耳にするのです。
もちろん、すぐに届くとは限りませんし、地域によっても違うと思います。それでも、支援として最初に動くのは食べものです。
では、何がつらいのか。聞こえてくるのは、プライバシーが守られないことと、トイレの問題でした。
これを知ってから、備えの順番が自分の中で変わりました。食べものは、配られる可能性があります。でもトイレとプライバシーは、配られません。だから私は、食料より先に携帯トイレを置いていますし、自宅が使えないときに身を寄せられる場所として車を考えています。
備蓄というと、つい水と食料のことばかり考えてしまいます。でも本当に困るのは、他人に頼りにくいところなのかもしれません。
まとめ
- 転勤族は持ち家も実家も遠く、いざというとき頼れる場所が少ない
- だから防災は「家を探す段階」から始まる
- 住む地域が決まったらハザードマップ。全国どこでも「重ねるハザードマップ」で見られる
- 地名の「川・池・沼」は気にするきっかけ。ただし最終判断は必ずハザードマップで
- 「自然災害伝承碑」で、その土地で昔なにが起きたかが分かる
- 賃貸マンションは停電するとポンプが止まって断水する。4階以上は特に注意
- 一番困るのはトイレ。携帯トイレの目安は1日5回×人数×7日分
- 車は「もう一つの家」。避難場所・電気・燃料・移動・保管の5つの役割
- 実際に車中泊をしたら、エンジンを切ると1時間ももたなかった(2月)
- 避難場所としても電源としても、支えているのはガソリン。半分を下回らないうちに給油している
- しまい込んだものは見直されない。だから備蓄は「実生活で使うもの」だけにする
- 水とお茶は持ち歩けるサイズで買い、出勤やテニスに持っていく。それが自然なローリングストックになる
- ラベルレスの賞味期限は段ボールに書いてある。箱を捨てる前に必ず確認を
- 食べものは普段食べているもので。非常食より「いつもの棚を厚く」
- 食べものは配られる。でもトイレとプライバシーは配られない
転勤族の暮らしは、自分で選べないことが多いぶん、選べるところは納得して選びたいなと思っています。住む場所を選べるのは、数少ない「選べること」のひとつです。
引っ越しの準備は本当に大変で、防災まで気が回らないのもよく分かります。でもハザードマップを1回見るだけなら、5分で終わります。次の引っ越しのときに、思い出してもらえたら嬉しいです。
転勤族の暮らしについては、こちらの記事も書いています。


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